
週末に日本キャリア・カウンセリング研究会主催の
E.H.シャイン博士(Dr. Edgar H. Schein)の講演会に行きました。E.H.シャイン博士は、MITスローン・スクール(経営学大学院)の名誉教授で、組織文化や組織開発、リーダーシップなど、組織研究の大家です。日本では、シャイン博士と言えば、どちらかというと組織開発研究のことよりも、個々人のキャリア形成に関するキャリア・アンカーの研究の方で知られているようです。
私の大学院のクラスでも、Schein教授の論文や著書が課題となって読む機会は多かったのですが、Schein教授の明解な論旨展開には目から鱗が落ちる思いで、いつも感心していました。
同じ米国の組織心理学の研究者の著作でも、話があちこちに飛んで分かり難い論文もあれば、他の研究者の論文の引用ばかりでその研究者自身の核が見えない論文などもありましたが、Schein教授の著作は教授の考えが整然と筋道を立てて述べられており、参考になる視点が豊富にあったので、自分のペーパーの課題で論旨を組み立てるときの骨子としてよく引用させてもらっていました。
今回のSchein教授の講演会については、留学カウンセラーのSさんからお知らせをいただきました。今後、日本でSchein教授に会える機会は、これを逃がしたらしばらくないかもしれません。講演会のことを知ってからすぐに申し込みをして、キャンセル待ちでどうにかチケットを手に入れることができました。Sさんに感謝!です。
講演会のタイトルは、「時代を拓くキャリア開発とキャリア・カウンセリング---内的キャリアの意味」でした。
最初のセッションは、キャリア・アンカーに関するSchein教授の講義でした。キャリア・アンカーとは、「個々人の持つ才能・動機・価値観の自己イメージ」のことです。人はそれぞれの経験の中で築かれた個々人のキャリア・アンカー(価値観や動機など)に従って意思決定を行い行動しています。
Schein教授は、キャリア・アンカーには、「専門・機能別コンピタンス」、「全般管理コンピタンス」、「自立・独立」、「保障・安定」、「起業家的創造性」、「奉仕・社会献身」、「純粋な挑戦」、「生活様式」の8つのカテゴリーがあるとしています。
例えば、エンジニアや投資専門家などは「専門・機能別コンピタンス」をキャリア・アンカーとしていて、専門性を磨いて道を究めることにやりがいを感じる人が多いですが、その一方で、看護士やカウンセラーは「奉仕・社会献身」をアンカーとしていて、人の役に立つことに生きがいを見出す人が多い、といったような具合です。また、「生活様式」を例にとるならば、ワークライフバランスを大事にして働きたいというアンカーを持つ人もいれば、仕事人間で私生活とのバランスを重視しない人もいるでしょう。
この個々人の持つアンカーと、現在の仕事の職務や役割の内容が適合する方が仕事に対する満足度は高くなります。もしキャリア・アンカーと現在の仕事が合わない場合は、将来希望する職務や役割について分析を行い、それに備えるための成長計画を立てることで解決の道を探ります。Schein教授は、講義の最後に、「キャリア・カウンセラーは、個人と組織を適合させるプロセスを改善するようなモデルや概念を持つ必要がある」とまとめていました。
2つ目は日本人の研究者・実務家を含めたパネル・ディスカッションでした。こちらは「日本とアメリカにおけるキャリア意識の違い」というテーマだったのですが、議論の話題はどちらかというと日本における「キャリア」や「キャリア開発」の概念定義が中心になっていたようです。
議論が少し抽象的な方向へと向かって行く中で、Schein教授が発言すると問題の所在が明確になり、場が引き締まった雰囲気になるのが印象的でした。
以下に、Schein教授の発言の一部をご紹介します。
キャリア開発の定義に関して・・・
Schein教授「ゴールは何かということを意識しなければなりません。キャリア開発のゴールは、個々人の人生における満足感を高めることであり、また同時にそれが、組織の生産性向上や成功に結びつくことなのです。キャリア開発自体がゴールなのではありません。」
キャリア・カウンセラーに求められることとは・・・
Schein教授「誰がキャリアという問題を必要としているのかを理解することが大切です。Outplacementのカウンセラーの場合、現状の労働市場を見据えながら、クライアントがトラウマを克服するのを助ける技能が求められますが、Executive Search Firmであればクライアントのスキルを見て、リーダーを必要とする組織に最適な人材を見つけて紹介する能力が求められます。キャリア・カウンセラーはそれぞれの活躍の場で求められるものを提供する必要があるのです。」
文化が個人のキャリア選択に及ぼす影響について・・・
Schein教授「Identity Theoryを考えた場合、”Career”は個人を形成する一つの要素と言えるでしょう。同様に、文化も個人を形成する一つの要素です。例えば、ある民族では農業が尊ばれますが、他の文化を持つ民族では工場労働の方が価値が高いという価値観を持っています。文化も個人を形成する大切な要素であり、個人と文化を切り離して考えることはできません。」
その後は懇親会に出席しましたが、開催後まもなくSchein教授のサインを求める長蛇の列ができあがり、大人気でした。ミーハーな私は、コンサルティングの授業で愛用した「Process Consultation」の教科書を持参して、サインと握手をしてもらったのでした。留学時代にお気に入りだった著書の研究者に会い、実際にお話しすることができて、良い記念になりました。